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歯科医のための「予防抗菌薬」の使い方

歯科医院での「予防抗菌薬」の使い方を、ガイドラインをもとに、簡単にまとめました。
ポイントは、1.どんな場面で2.いつ3.何を使うか、の3つです。

1-0抗菌薬を例外的に「予防」に使う2つの場面

抗菌薬は、本来、すでに成立している感染症の「治療」に使うべきものであり、例外を除いて「予防」に使うものではありません。
抗菌薬を、例外的に「予防」に使うのは、歯科医院では、以下の2つの場面だけです。

歯科医院で「予防抗菌薬」を使う2つの場面

  1. 1)手術部位感染(SSI)の予防
  2. 2)感染性心内膜炎(IE)の予防

1-1手術部位感染(SSI)の「リスク因子」

手術部位感染(SSI)の予防は、「SSIの高リスク因子」がある患者に対して行われます。
ガイドラインをもとに「SSIの高リスク因子」を、歯科医院にフィットするように、以下にまとめました。

手術部位感染の高リスク因子

  1. 1)米国麻酔学会術前状態分類(ASP-PS)≧ Ⅲ(重度の全身性疾患を有し、日常の活動が制限されている患者)
    • コントロール不良の糖尿病/高血圧
    • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
    • 高度肥満(BMI ≧ 40)
    • 活動性の肝炎、アルコール依存または中毒
    • ペースメーカー
    • 中程度以上の駆出率(EF)低下(心不全)
    • 定期的に透析を受けている末期腎不全
    • 以下の既往
      • 虚血性心疾患/ステント留置
      • 脳血管障害、一過性脳虚血発作(TIA)
  2. 2)肥満(BMI ≧ 25)
  3. 3)ステロイド・免疫抑制剤の使用
  4. 4)術野に対する術前放射線照射

1-2感染性心内膜炎の「リスク因子」

感染性心内膜炎(IE)の予防は、「IEの高リスク因子」がある患者に対して行われます。

感染性心内膜炎の高リスク因子

  1. 1. 予防すべき「リスク因子」
    • 1)人工弁置換患者
    • 2)IEの既往がある患者
    • 3)複雑性チアノーゼ性先天性心疾患(単心室、完全大血管転位、ファロー四徴症)
    • 4)体循環系と肺循環系の短絡造設術(シャント)患者
  2. 2.予防した方が良いと考えられる「リスク因子」
    • 1)ほとんどの先天性心疾患(単独の心房中隔欠損症(二次孔型)を除く)
    • 2)後天性弁膜症(逆流を伴わない僧帽弁狭窄症ではIEのリスクは低い)

感染性心内膜炎の予防抗菌薬の投与については、以下にもまとめています。
1分で読める!歯科医のための「感染性心内膜炎」の抗菌薬予防投与

2「予防抗菌薬」は「術前」に投与する

抗菌薬が「術後」に投与されることをしばしば目にしますが、SSIの原因は「術中の細菌汚染」と考えられているので、「予防抗菌薬」は「術前」(「処置前」)に使うべきです。
手術がはじまる時点で、十分な血中濃度、組織中濃度が必要なので、切開の1時間前以内に投与を開始します。

また、術後数時間まで、抗菌薬濃度が適切に維持されれば、抗菌薬の追加投与は必要ないとする報告が多いので、歯科医院での「予防抗菌薬」は、ほとんどの場合、「術前」の単回投与で十分です。
もちろん、すでに感染が成立している場合は、予防抗菌薬のルールではなく、治療抗菌薬のルールに従うことになりますので、この限りではありません。

3「予防抗菌薬」の第一選択はアモキシシリン

「予防抗菌薬」は、原則として、手術部位の常在細菌叢に活性のある抗菌薬を選択し、「治療抗菌薬」の場合と同じ用量で使用します。

歯科医院でのターゲットとなる常在菌は、口腔内嫌気性菌、連鎖球菌なので、「予防抗菌薬」の第一選択はアモキシシリン(AMPC)です。
商品名は、サワシリン®、パセトシン®、アモリン®、ワイドシリン®、などです。
ペニシリンアレルギーなど、βラクタム系抗菌薬にアレルギーがある患者様の場合、クリンダマイシン(CLDM)が代替薬です。
商品名は、ダラシン®です。

4術式別まとめ

術式 推奨抗菌薬 βラクタム系抗菌薬
アレルギー患者での代替薬
備考
インプラント埋入手術 AMPC
手術1時間前に経口服用
1回250mg~1,000mg
CLDM
手術1時間前に経口服用
1回150mg~300mg 注(1)
単回
下顎埋伏智歯抜歯術 AMPC
手術1時間前に経口服用
1回250mg~1,000mg
CLDM
手術1時間前に経口服用
1回150mg~300mg 注(1)
単回~48時間
抜歯
感染性心内膜炎の高リスク患者 注(2)
AMPC
手術1時間前に経口服用
1回2,000mg
CLDM
手術1時間前に経口服用
1回600mg
単回
抜歯
SSIリスク因子あり
AMPC
手術1時間前に経口服用
1回250mg~1,000mg
CLDM
手術1時間前に経口服用
1回150mg~300mg 注(1)
単回~48時間
抜歯
感染性心内膜炎、SSIリスク因子なし
予防抗菌薬の使用は推奨しない - -

AMPC:アモキシシリン(サワシリン®、パセトシン®、アモリン®、ワイドシリン®)
CLDM:クリンダマイシン(ダラシン®)

注(1)ガイドラインには、CLDMの使用量の記載はない。予防抗菌薬は、治療量用いることが原則なので「1回150mg~300mg」とした。コクランレビューでは、インプラントの埋入手術に1回2,000mgのAMPCを推奨しているので、CLDMについても600mgを検討しても良いかもしれないと筆者は考えている。

注(2) 感染性心内膜炎のリスク患者:①生体弁、人工弁置換患者、②感染性心内膜炎の既往を有する患者、③複雑性チアノーゼ性先天性心疾患(単心室、完全大血管転位、ファロー四徴症)④体循環系と肺循環系の短絡増設術(シャント)患者、⑤ほとんどの先天性心疾患、⑥後天性弁膜症、⑦閉塞性肥大型心筋症)、⑧逆流を伴う僧帽弁逸脱

参考
術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン、日本化学療法学会・日本外科感染症学会
JAID/JSC感染症治療ガイド2019、日本感染症学会・日本化学療法学会

記事監修
院長 宮嶋 大輔

新潟大学卒
東京医科歯科大学大学院卒業
歯学博士、口腔外科認定医、インフェクションコントロールドクター。

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